性的行為を強要されるのは「羨ましい」と発言することについて

 「とある俳優Aが未成年に対し性的行為を強要した」というニュースが世間を賑わせています。もし仮に強要が事実であるとすれば、これは言うまでもなく重犯罪です 

 ところで、このニュースに関してはある特異な意見がネット上で続出しています。それは「(俳優Aではなく)その被害者が羨ましい*1」「私も強引にされたい」というものです。ふだん性犯罪については「苦しめて殺せ」という意見すら受け入れられるネット言論空間において、これほどまでに差があることは私にとって驚きでした。

 他方で「羨ましい」という意見については二次加害(セカンドレイプ)であり許せないという批判も起きています。しかし、この批判は果たして妥当なのでしょうか?どのような言論が二次加害にあたるのでしょうか?

 

「羨ましい」は二次加害ではない

 私は、「その被害者が羨ましい」は二次加害ではないと考えます。なぜなら、これは発言者個人の趣向、好きな人・シチュエーションの表明に過ぎないからです(というか単なる冗談・受け狙いかもしれません)。

 ある種の創作のプロットに"好きな人にレイプされる"、"レイプから始まる恋愛"というものがあります。はっきり言って現実離れしていると思いますが、そのような空想をする行為、あるいはそのような空想を好む人格は何ら異常ではないし、責められるべきでもありません*2。実際の事件をネタにするのは慎むべきだという向きもありますが、決して被害者を貶めているわけではないのであり、自分が気に入らないから止めろと言った方がまだ素直でしょう。

 ただし空想と現実は区別しなければなりません。現実の犯罪は犯罪として非難されるべきでもあります。「イケメン無罪」などと軽々しく言うのは問題です。

 

自己決定権の否定・被害者への決めつけこそが二次加害だ

 ではどのような言論が二次加害にあたるのでしょうか。それは例えば「ノコノコ行く方も悪い」「酒を飲んだ時点でその気があったに違いない」あるいは「俳優Aに襲われて被害者は幸せだ」「後からチクるなんて傲慢だ」というものであると考えます。

 そもそも性的行為は互いの合意に基づいてしか許容されないのであり、誘ったのが誰であろうと、その誘いを受けるかどうか(あるいはどの程度まで受けるか)の決定権は相手にあります。酒に酔っていたり年齢が低かったりして*3十分な判断能力がない相手から形式的に同意を得たとしても、それは合意を形成したとはいえません*4。「襲われるのは簡単に想像できるのになぜ飲んだんだ」という意見も単なる被害者非難であり、悪いのは100%加害者です。

 また、俳優Aの場合でのみ「被害者は何が不満なのか」といった二次加害が起きる背景には「自分なら俳優Aに襲われたいからこの被害者もそうなのだろう」という決めつけや、「自分なら俳優Aに襲われたいのにこの被害者がそう思わないのは異常だ」という押しつけがあるのではないかと感じます。これらは到底許されるものではありません。

 

二次加害ではないが…

 その他、いくつか気がかりな意見が見受けられました。

「俳優Aにむしろ好感がもてる」

 性犯罪を軽視している節がありませんか?性的自己決定権は本人の幸福と強く結びついたものであり、他のどんな人間によっても奪われるべきではないです。

「レイプされるくらい魅力的な自分になりたい」

 欲情されるということは自分の身体に魅力を感じているということではあるかもしれませんが、仮にそうでも人格にまで魅力を感じているとは限りません。また、身体の価値判断基準を欲情する他者におくことが必ず正しいとも言えないでしょう。さらに、性犯罪に関していえば訴えなさそうだから狙われる、あるいは相手の身体にすら魅力を感じておらず単なる加害欲望により狙われるという場合もあります。

「自分も俳優Aのようにイケメンになってヤりたい」

 相手に好かれる人間になりたいというのは構わないですが、あなたが相手からどんなに好かれていようと性的行為を強要していいことにはなりません。また、強要されても訴えない人に好かれたいと考えているのだとしたらずいぶん自分勝手で都合のいい発想だなと感じますし、必ず空想だけに留めておいてください。

「その被害者が羨ましいなんて言って、勘違いする人間が増えたらどうする」

 性犯罪者をその犯罪に及ばせたものが何かというのは非常に難しい問題であり、このような雑な議論で表現の自由にケチをつけていくと結局は息苦しさばかりが増していくことになるでしょう。それよりはむしろ受け手の側のポルノリテラシーを重視すべきではないでしょうか。

*1:「単に俳優Aに会えることが」ではなく「俳優Aに襲われることが」です。

*2:この空想について「好きな人・イケメンだったらいいのかよ」という意見もありますが、それの何が問題なのでしょうか?なお、このような空想を好む人のほとんどは、現実に自分がレイプされたいと思っているわけではありません。

*3:このエントリでは俳優Aの「強要」を問題視しています。「被害者が未成年」という理由で糾弾すべきかは自明でないと私は考えています。

*4:性的行為の内容について説明して明示的に合意してから、合意のうえ飲ませたというのであれば別ですが。